声のはなし

人の心が

わずかばかりに

ほどける

その瞬間が好きだ。

 

その人間の現在地点

立ち位置

今日までその人を取り巻いてきた環境と人間関係

 

切羽詰った果てに

あるいは

その人がその日を生きのびるために

自分自身を守るために放棄された

痛み・悲しみの感情と

筋肉の柔らかさ

 

そのこわばった顔の

口元がふとほどけるのを見る。

 

上手に話しかけてくるというわけではなく

でも本当にその人が

「わたしに話しかけてくる」

その短く抑揚のない声に

その人がやっと今

手に入れた小さな「安心」を垣間見る。

 

そういう人が呼ぶ私の名前には

何か特別な響きがある。