火鉢を買った。
「あうん」の軒先に
それはポツネンと置かれていた。
朱色の漆が塗られ
梅の文様が彫られている凝ったモノだ。
絵を描いてるうち
「ここには火鉢を置いて、このムコウには柱時計があり…」と
まるで本当の自分の部屋でも作るかのようにイメージする。
この火鉢はそれにぴったりときた。
そういえばなぁと
自分の家の中の「あるもの探し」を始めるに至る。
古い筆棚やねじ式の時計
ランプやちゃぶ台
紫檀の煙草盆
そして自在鍵。
それぞれ安価で譲り受けたモノたちには
邂逅の物語りがある。
店じまいする文具店の前に
捨てられそうになっていた小さな棚。
あまりに魅惑的な棚であり
躊躇しながら話しかけられずにはいられなかった朝。
「あんた業者か」と問われ
「ただの通りすがりなのです」と言ったら
タダでくれた。
何故かお礼にと枇杷を届けたのを思い出す。
この文具店も
とうとう商店街から消えてしまった。
ねじ式の古時計には
ねじが無いので動かない。
でも時折、何かの拍子で突然歯車が動く気配がして
「ボーンボーン」と音立てたりする。
今日買った火鉢を見て
家人が言った
「あーまた無駄にモノを増やしてる」
すかさず私は「荘子曰くの無用の用」について語り
部屋はカオスとなっていくのであった。