家族を看取るというのは
生涯において数少ない身近な死と向き合う機会だ。
「死」そのものを受け容れる前の過程で
病や治療のために
苦しみもがく姿を目の当たりにし
もうどうしようもなく
エネルギーを奪われていくばかりの時間があった。
一人、またひとりと
家族それぞれの心にほころびが生じる。
やがて死はやってきた。
顔は今
安息を思わせる。
それだけが救いであるようだ。
そうして瞬く間に
病室から霊安室、納棺へと
進行してゆく儀式。
帰りたがっていた自宅に横たわるその唇に
「おかえりなさい」と水をそえ
今にも起きてきそうな穏やかな顔も
段々と硬直してゆく頃
あなたが一番楽しかった時分へと
もし帰ってゆくのであれば
それはいつの頃だろう。
重たい肉体を離れ
あなたよ
今こそ自在に風になれ。