フィルムカメラ

古いカメラのシャッター音が好きだ。

フィルムを「巻き上げている」という手応えといい

楽しみに現像プリントを引き上げに行くと

「写ってなかったよ」と写真屋さんのおじさんに言われるのも結構好きだ。

この場合の写真屋さんも

できればカメラ愛好家のような職人肌の店主だともっといい。

「フィルムが巻けているかどうかの見極め方」についても

ちゃんと教えてくれる。

 

今ではお金がかかるのでデジタルで撮ることが増えたけれど

以前ははよくフィルムカメラを持ち歩いた。

以前もお金があったわけではないが今よりはマシだったということだろうか。

 

モノクロフィルムばかり選んでいたころ

撮影した子どもの写真なども部屋に飾っていた。

 

知り合いが遊びにきた折

話の途中で悲しそうな表情に声をひそめつつ

「亡くなられたんですか…お子さん」と言われたこともあった。

賀状をモノクロで撮影した子どもの写真にしたら

「正月から縁起でもない」と3人からクレームが入った。

だが賀状を出しているのだから元気でいる証拠だ。

写真がモノクロだと

死亡した人間の遺影と考える人がいるということを知った。

 

 

以前、美しい女性の写真をロケットに入れ、首から下げている女の知り合いがいて

「若くして死んだわたしの母なの」と

壮大で雄大な血縁にまつわる悲劇的な人生を語った人がいた。

わたしは泣いた。

 

数年後、その人の母の葬式に呼ばれた。

私は「彼女の本当のお母さんは若くして亡くなったと聞いています」と言ったら

その人のお姉さんが

「本当もなにも今葬式をしているのが、あの子と私の本当の母です」と言った。

「ロケットに大切にしまわれた美しい女性の写真が…」と答えたら

「誰の写真入れて持ち歩いているのかしら、あの子」と困った顔をしていた。

 

あれは一体誰の写真であったろうか。

彼女は今でもまだ、あのロケットにしまわれた写真と共に

壮大なドラマのヒロインとして人生を歩いているだろうか。

元気で浪漫ちっくに歩いていて欲しい。