ホンノムシ

本の虫が羽化したならば何になろうか。

 

ひと月と予測されていた貴女が死んだ。

今年初めての蝉が鳴いた日

病室の窓からもそれは聴こえていて

突然「ありがとう」と背中越しに言って寄こした。

最後に見舞った暑い日。

 

 

彼女の糸の縫い目は

ミシンほどに細かくまっすぐで

それを良い加減にはできない人だった。

(世はテンポよく進みます

  微笑など浮かべ要領よく前向きに)

 

部屋から溢れるほどの本は

この人にとって最後の城壁だったかもしれない。

 

今日はぼんやりと

いつも首に巻いていたタオルなど思い出してみる。

 

*断片スケッチ 2016.7.23