東へ西へ、
前後左右。
どちらに向かうのか
何を目印にし
そもそも何をどうするために歩を進めるのか。
はっきりとは分からず曖昧としている日がある。
彼女は違った。
「北へ」
何が貴女を追い立てるのかは誰にも分からず
おそらく彼女自身にも不可解なまでの焦燥感に
片時も落ち着いてはいられなかったらしい。
車に飛び乗ると
一目散に北上し
海辺の街まで走り続けた。
ふる里の海が
貴女を呼んだのだろうか。
ミニのワンピースなど華やかに着て
足元につっかけサンダルの身軽さで
貴女が海を目指した日の朝が
鮮明にわたしの中に残っている。
今頃
少しは落ち着いて
当ての無いまま眠りに落ちているのでしょうや。
湖近くに新しい居を移したと
風の便りに聞いたのが最後でした。
*作品:FRAGILE 003