パン屋のメロディ

旋律は、深く心に刻み込まれるものだ。

 

小学校時代、夕暮れになると

帰宅を促すアナウンスと共に流れたトロイメライは

今でも私を「帰らなくっちゃ」と煽る。

 

軽トラでやってくるパン屋さんなども

毎週同じメロディを流してくるのであり、

眺めていると

まるで旋律に呼び寄せられるかのように

わらわらと建物からパン好きが財布を抱えて集まってくる。

 

その中に毎回必ず現れる3人組の女がいた。

時にはまだ音楽が流れてくる前からパン屋を待ち構えている。

むしろその3人が立っているのを見て

「あぁ今日はパン屋さんがくる日だった」と思い出すほどだった。

 

その3人も

今ではそれぞれバラバラになり

会うこともなくなった。

 

パン屋のメロディが流れるたび

明らかに買いすぎて膨らんだ袋と

それぞれの顔を思い出している。

 

*FRAGILE 004