2ヶ月ほど前からだろうか。
雨が降る日には
外から「ケケケケ」と声がする。
最初は空耳だろうかと気に留めなかったが
それが決まって雨の日で
時間はまちまちだけれど
やっぱり同じように声が続いたので
今では雨がふると
いつ笑うだろうか?と考えるようになった。
「河童だ」と思ったのには理由はないけれど
なんだか嬉しそうな声なので
自分のベランダの下の河童について思いを巡らせるようになった。
子どもの頃
祖父母の暮らす家は
庭が広く盆栽が並べられ、時々植木屋さんが樹木の剪定にきていた。
庭には巨大な物干しが2段に作られていて井戸の中には金魚が泳いでいた。
昔ながらの縁側の下には
鈴虫が飼われていて
秋の夜はとてもいい音をたてた。
小さい頃
縁の下を覗いてみたことがあった。
そこはシーンとして
奥までは光りが届かず
先の見えない暗闇があり
土をかぶつた瓶が転がっていた。
あまり見つめていると怖いものでも見てしまいそうで
背のあたりがゾッとしたのを思い出す。
今わたしが暮らしている部屋には
縁側も軒下もなく
鈴虫も飼わず
風鈴も近所に音をはばかってぶら下げないから
情緒も風情も全くない。
それで
ここ最近になって聴こえる
あの「ケケケケ」という声だけが
わたしに空想のスキマを与えてくれるのだ。
河童は明日笑うだろうか。
陽射しの強い日が続いたならば
居なくなってしまうのだろうか。
そっとキューリなど置きつつ
実のところ心配しているのだった。
*ノートの落書き